フィンランド生まれの世界的な現代音楽の作曲家カイヤ・サーリアホのオペラ「Only the Sound Remainsー余韻ー」が、6月6日・東京文化会館で日本初演された。
東京文化会館の60周年記念の「国際共同制作」であり、日本文化と海外との創造的なコラボレーション作品になっていて、美事な歴史に残る作品として上演された。
日本の伝統文化に触発された芸術が、音楽でここまで昇華された世界に出逢うことはなかなか無かった。能や歌舞伎、民俗芸能から邦楽の世界の影響を得たと作者が告白しても、どこかコピーを感じさせる迎合部に失望を感じたりすることがあったが、本作品は正にオリジナルの世界を展開させていた。
原作は、能から第一部「経正」、第二部「羽衣」だ。英語で歌われ、そこにダンスが加わり、簡易に見えても人びとを精神世界に誘う舞台装置・音響・照明の演出は、異次元の世界を創出させていた。
笛や打楽器での表現や、ダンサーの歩みに、時として能からのインスピレーションを感じさせるが、完全に国境や時間を越えたオリジナルな世界になっていたと思った。日本文化から影響を受けたという作品群のなかにあって、かつてこれ程美事な世界として聴かせていただいたことはなかった。日本文化とのコラボレーションの秀逸な例として、これから各国で何度も上演されて行くような実感を持った。
7名程度の国際的なメンバーによるアンサンブルが小編成のオーケストラのような世界を描いていたことも驚嘆した。企画制作から、上演へ向けた全てのサポート、そして今回はコロナ禍のなかでの苦労を越えて成功させたことは、これ以上の讃辞の言葉を知らない。