シューベルトにピアノ・コンチェルトは無い。ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調のピアノとオーケストラのための演奏用バージョンのことで、この度「吉松 隆」氏の編曲で初演された。
シューベルトの晩年の最後の作品で、ピアノの原曲だけでも名曲の価値はある。それにオーケストラが加わると、蛇足に思えないか心配でもあり興味津々で聴きに行った。
白黒の写真がフッと色彩を帯びるように、ピアノがオーケストラの響きの中に溶け込むように空間を包んでいく。余計な手を書き加えていない。作品に畏敬の念が込められた祈りがピアノを包んでいく。
通常の二管に弦楽とティンパニが加わる編成だが、そこにグロッケンシュピールが加えられていた。普通ではありえない編入だが、実に効果的な世界を生み出していた。この後に続くロマン派の世界を呼び込むようでもあり、チェレスタの活躍を予言するようなスペースを感じさせていた。編曲したシンフォニー作家の吉松氏の美事な宇宙が拡げられて行った。
テーマを基にしたピアノとオーケストラの歌い合いも自然で心地よい世界への誘いを感じたが、元々ピアノとオーケストラの協奏を書いた作品では無いために、オーケストラの活躍は控えめになってしまっていた。しかし、ラベルが「展覧会の絵」を書いたような域にもあるようで、これは色々なピアニストやオーケストラが採り上げていただくと楽しいと思った。
田部恭子のピアノは素晴らしかった。藤岡幸夫指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が熱演。2022年1月29日・ティアラこうとう 大ホール