ピアノで音楽ワークショップを展開するのは、なかなか難しい。ピアノがあれば音楽の様々なニーズへの応えや表現が可能になる。しかし楽器を動かせない、参加者の音楽での反応や顔が見えづらいことが問題になる。音楽を聴かせる、歌の伴奏をする時には威力を発揮するが、音楽づくりなどには余程工夫をしないと参加者のサポートに向かないことが多い。
十年程前に北九州の文化施設を私はフラリと訪れたことがあった。そこで子どもと音楽家がワークショップを楽しんでいるスペースに遭遇した。アップライト・ピアノを壁側に向かって弾きながら、子どもの歩みで音楽を感じるあそびで湧いていた。簡単なバンプ(ブンチャ、ブンチャというリズム)を弾いているのだが「何という音楽だ」と感動するほど素晴らしく我が耳を疑った。私はその時知らなかったが「佐山雅弘」というジャズピアニストとその仲間による、子どもたちとの音楽ワークショップ企画だった。
佐山さんは18年秋に亡くなられた。でも私はその時の出逢い以降、彼の音楽を聴きまくっていた。寺井尚子さんのジャズヴァイオリンとの協演や彼のピアノトリオに感動し、分かりやすくクラシック音楽をも包括するクリアな演奏とケレン味のないヴィルトオーゾは特筆だと思っていた。音楽の実力は、ライブやCD・DVDだけでなく、子どもとのコラボの瞬間に輝くのだと今でも思っている。