いい音、いい声は、波形の基音が明確だ。基音とそこからの倍音の組み合わせが個性を決めている。しかしそのいい音を集めたり重ねたりしても、音の豊穣さにつながらない。個性の無い音の束は単一色でしかない。

 個人でもアンサンブルする人びとでも、同じいい音(声)を持った人びとの団体は無個性になることが良くある。音や楽器の個性はノイズのような、ちょっと「困ったちゃん」の活躍が面白くさせてくれている。それは楽器だけでなく、他の分野でも共通する秘密のようだ。困ったちゃんを生かした仲間が新しい世界を創出できるということだ。だから困ったちゃんは堂々としていていい。

 同一色で透明な声を響かせる音楽も素晴らしい。芯のある音や声の仲間に、ダミ声やハスキーな声が入り、解け合い響き合っている団体の音楽はシンセサイズされた現代の響きになるようだ。
 「この音はいい音ではないのか?」という楽器開発での論議と評価には、常にその塩梅が必要とされるのだ。