20世紀後半、日本の現代音楽作品はかつてないほどの名作が生まれていた。日本の天才作曲家諸氏が珠玉の名作を生み出した時代だといえる。
 海外で高評価された作曲家作品は、私たちも良く知っている。歴史に残る名作の数々に圧倒されている。一方、海外のオーケストラ公演でも紹介されたが、あまり評価されていない作品も多かった。ヨーロッパの伝統的な様式に則った作品など、欧米の専門家諸氏から失笑されたりした。

 矢代秋雄の「ピアノ協奏曲」の第二楽章についてお話しする。ドレミのドの音のリズムパターン(オスティナート)が繰り返されるなか、弦が緩やかな歌を浮かび上がらせていく。子どもの頃に眠っていてウナされた響が元になっているそうだ。エピソードはともかく、誰にでも分かりやすく、イメージも人それぞれに掴みやすい。その分かりやすさというのが大きな魅力だ。それがあると、第一楽章や第二楽章も理解されやすくなる。子どもなど、こんなエッセンスから自分の世界に矢代作品を迎え入れてしまうような気がする。

 日本のあるオーケストラによる海外公演では、散々だったようだ。国際的に活躍していた共演のピアニストには「何でこんな曲に入れあげた演奏をするんだ」とまで言われたそうだ。
 でも時間が経つと、多数の聴衆がイメージを膨らませて、作品の優れた世界を敬愛して行くような気がしている。