この頃の若い声楽家には少なくなったが、それでもウワオ〜ワオ〜その辺の音を揺すったビブラートや、チリメン・ビブラートといわれている音を震わすだけの声を出しているひとは今でも少なくない。
歌・声の作品上の表情や解釈で、指定のピッチより上ずったり、低めに重く音程を取ったりすることやビブラートの種類による変化は良くある。しかしアバウトにその辺の音を揺すればいいわけではない。
それは生理的に気分が悪くなる音楽表現で、それが私は嫌で随分仲良くなれない声楽家がいたと思っている。
音楽スタジオで録音して編集してみると、そのいい加減なビブラートは解釈で付けているのではなく雰囲気で付けていた結果が直ぐ分かった。つまり編集ポイントが何回取り直してもどのテークともつながらないからだ。
私がお仕事をご一緒したスターで女王と呼ばれた歌手は、録音で何度取り直しをされても、全く同じ歌い方をされていたので編集は何の苦もない作業になった。誤解が無いように付け加えるが、彼女のミスで録り直したのではなく、技術的な問題や何かノイズが入ったという、歌の責任外の話しだった。